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「自然」と「nature」についてー「自然(しぜん)」は訳語だって知ってた?

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「自然」とは

いま、あなたが「自然」という言葉をきいて思い浮かぶのは何ですか?

「そうなるのは自然だ」
「自然とそうなった」

という遣い方よりも

「きれいな自然」
「北海道の大自然」

など、山や川、森林、風を指して言う「自然」を思い浮かべませんか?

実はこれ日本古来の遣い方ではなく、「nature」の訳語として用いられてからの遣い方なのです。

仏教用語「自然(じねん)」

もともと「自然」は、「じねん」と読む仏教用語でした。

この「じねん」は仏教用語ですが、仏教の真理をあらわす場合と、仏教からは否定される考えとされる場合があります。

仏教の真理としては

この世がそれ自身のもつ法則に則って、そのままにあること

を指します。仏教では因果論=因縁を重視しているので、そのような因果の法則が当然働くのが「自然」と考えています。

これに反して、仏教から否定される考え方にある「じねん」は

万物が因縁によって生じていることを否定して、本来的にそうなっているとする

という無因論のことを指します。

日本では老荘思想が後に入ってきて「無為自然」という考え方が広まるので、どちらかといえば仏教の心理としての「じねん」が一般的であると考えてよいでしょう。

(蛇足ですが、インドでは逆に無因論が頻繁に問題となり、よく議論されていたようです。)

この「じねん」がどうして「nature」の訳語となったのでしょうか?

「nature」の訳語として

蘭学者の稲村三泊が、宇田川玄随や岡田甫説の協力にによって編纂した『波留麻和解(はるまわげ)』(1796年刊行)という日本最初の蘭和辞典(オランダ語→日本語の辞典)で「natuur(ナトゥール)」の訳語として「自然」が用いられたのが初出とされます。

これを引き継いだ藤林普山の『訳鍵(やくけん)』(1810年刊行)でも「natuur」の訳語の筆頭としてあてられ、これがよりいっそう普及するきっかけとなり、「天地」、「万有」、「造化」などの訳語と競合しながらもついに定着するに至りました。

なぜ訳語として選出されたのか

訳語として候補になったのはなぜなのでしょうか?

この理由には「nature」と「自然」に共通する部分があったから、ということが挙げられます。

「nature」のもととなっているラテン語「natura(ナトゥーラ)」や、そのさらにもととなっているギリシャ語「physis(フュシス)」に

「おのずと生まれ、育ち、衰え、死んでゆく」

という、「他律的な人為が加わってない」という意味合いと、老荘思想以来の「自然」にある

「人為の加わっていない本来のままであること」

という意味合いが偶然合致したのです。

訳語としての問題

しかし、「自然」を「nature」の訳語としてしまうことにはいくつかの問題がありました。

前項の意味合いの合致した部分としていない部分を図にしてみると、この問題が浮かび上がってきます。

簡潔に言えば、

「nature」には「人間」は含まれず、「自然」には「人間」が含まれるのです。

さらに言うと

「nature」は森林や川などの物体を指して言う「名詞」

「自然」は森林や川、人間などの物体の状態を指して言う「副詞」あるいは「形容動詞」

だったのです。

今でこそ「自然」を当たり前に「名詞」的に用いていますが、これは本来の意味からすればとんでもない「誤用」なのです。

この「自然」が「nature」の訳語として用いられたことで、明治の文学者たちは頭を悩ませ、ある人は「nature」として、ある人は本来の「自然」として「自然」という言葉を捉えてしまい、ああでもないこうでもないという論争が起こってしまうこともありました。

訳語としての問題

(一)オノヅカラ然ルベクアルコト。=天然 (二)英語、Nature の対訳。天地宇宙の精力。

上の説明は明治26年(1893年)に刊行された山田美妙(山田武太郎)編纂の『日本大辞書』にあるものです。

どうですか?「天地宇宙の勢力」というと人間も含まれるような気もしますね。

この81年後に刊行された「日本国語大辞典」を見てみましょう。

①山、川、海、草木、動物、雨、風など、人の作為によらずに存在するものや現象

どうでしょう。わかりやすくいま遣われる「自然」の説明が成されています。

まとめ

今日、私たちが山や川、森林を指して「自然」という言葉を遣うことの不可解さについて、実は以上の説明ではまだ不十分です。

言葉を使うとき、必ず「思想」、「自然」という言葉なら日本人の「自然観」西洋の「自然観」についても考えなければなりません。

次回は「自然観」を中心に「自然」という言葉について考えていきましょう。

参考文献

広松渉ほか 編 『岩波 哲学・思想事典』岩波書店 1998年3月
総合仏教大辞典編集委員会 『総合仏教大辞典 上あ―し』法蔵館 1987年11月
山田美妙 『日本大辞書』 日本大辞書発行所 明治26年8月
日本大辞典刊行会 編 『日本国語大辞典』小学館 1984年1月
柳父章 『翻訳の思想 〔自然〕とNATURE』平凡社 1977年7月
伊東俊太郎 『一語の辞典 自然』三省堂 1999年1月


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