読書感想文にもおすすめ。痛快なエンターテインメント小説になり得る純文学「最後の一句」 |

読書感想文にもおすすめ。痛快なエンターテインメント小説になり得る純文学「最後の一句」

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授業でもよく取り扱う短い小説

森鴎外著「最後の一句」はさくっと読めるので教科書にもよく掲載され、授業でも取り扱うことの多い小説ですね。
その一方で内容は一癖あり、理解するのには少し時間のかかる小説でもあります。

しかしひとつずつ読み解いていくと非常に面白く痛快なお話であることがわかります。

僕が読んだ小説の中で一、二を争うくらい好きな小説なのでその面白さをご紹介していきたいと思います。

時代

この小説は「元文三年十一月二十三日の事である。」という一文から始まります。

元文三年は1738年のことです。

著者の森鴎外は1862年の生まれなので、当然これから書かれる時代のことを勉強しただけの人間に過ぎません。

それでも非常にリアリティのあるその時代性をよくあらわした話になっています。

要約

おおまかなあらすじをみていきましょう。

居船頭の桂屋太郎兵衛は沖船頭の新七から米屋に渡すべき金を受け取り、新七が逃亡したので太郎兵衛が二年の間牢に入れられる。

それからというもの5人の子を持つ太郎兵衛の女房は泣き言を言ってやつれていってしまう。

そうして二年がたったあと太郎兵衛が処刑されることが決まってしまった・・・。

一連の状況を見て、長女いちは父・太郎兵衛を助けるために代わりに養子である長太郎を除いた自分たちを殺してくれと奉行所に頼み込みに行く。

門前払いされるも門の前で開くのを待ち続けようやく中に入れられ願書を提出した。

そのころ奉行所の新参・佐佐は自分では何もしてないものの、ようやく事件をひと段落つけることができてほっとしていた。

しかしそんな折に太郎兵衛の子供らが命乞いに来たのでなんとしてでも追い返そうと城代の大田に助けを請い、町年寄五人とともに取調べの席に出させることにした。

いちの願書とともに長太郎の「自分も一緒に死ぬ」といった内容の願書も提出され、それぞれに尋問が行われる。

奉行所側は申し立てが誰かの入れ知恵であったりうそであった場合は責め道具で甚振ると恫喝するも、いちはそれに動じない。

奉行所は「身代わりになることが受理されれば父の顔を見ることなく殺されるぞ」と問うがいちは、「お上の事には間違いはございますまいから」とそれに同意する。

佐佐はいちの「最後の一句」に虚をつかれた思いがした。

太郎兵衛の刑の執行の日は延長され、結果赦免として死刑にはならないものの大阪へは出入りできないようになる。

その追放の前に太郎兵衛と女房・子供たちは無事顔をあわし別れを告げることができた。

「最後の一句」の醍醐味

最後の一句の面白いところは奉行所と子供・いちの意地の張り合いにあります。

本当のところ、奉行所に太郎兵衛を処刑するだけの証拠はないのです。

でもこれ以上調べることもできず、また長々とひとつの事件にかまってはいられない、早くけりをつけたかったので処刑してしまうことにしました。

それを知ってか知らずか、いちもまた父が無実であるという根拠はないものの「奉行所がまさか適当に判決を下すことなどしないだろう」という奉行所にとって痛いところをつかれる一言「お上の事には間違いはございますまいから」を放ったことからそれがわかります。

当時の政府の適当さと町人との張り合いを皮肉ったのがこの作品なのです。

話の複雑さに打って変わって主題はとても単純明快なんです。

もっとわかりやすくまとめると・・・

とはいっても文章がむずかしくてよくわからん!という方のためにすごーく簡単に話をまとめると・・・

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いち「おとっさんが処刑される!?おっかさんも参っちゃっているし、こりゃあだまっちゃいられねぇや!おいみんな奉行所行くぞ!」

いち「やい奉行所さんよぉ、おとっさんの代わりにおいらたちを処刑してくんねぇか?でも長太郎だけは勘弁な!」

奉行所「ようしわかった。でもおとっさんの顔を見ることはかなわねぇぜ?」

いち「ああ構わないさ!まさかあんたたちのすることに間違いがあるはずねぇだろうからな?」

奉行所「ぐぬぬ、これは痛いところをつかれてしまった・・・。でもそのまま無罪放免とは奉行所の名が廃る。ん?大嘗会があるじゃあねえか!これじゃあ執行の日にちもうまく決められねえなぁ。よし特別に赦免ってことにしてやらぁ!特別だゾっ!」

こんな感じです。ね?わかりやすいでしょ?

用語解説

この話のテーマがいくら簡単なものとはいえ、書かれた時代が時代ですから単語は普段使わないものばかりがでてきます。

というわけで用語をひとつひとつわかりやすく噛み砕いていきましょう。

居船頭(いせんどう)・・・船には乗らないものの船を所有しているひとのこと。

沖船頭(おきせんどう)・・・運航の責任者となって船に乗るひとのこと。

(おうな)・・・年をとった女の人のこと。

詰所(つめしょ)・・・勤務している間寝泊りする場所。

奉行(ぶぎょう)・・・裁判所や司法、行政、治安、消防などいろいろやる人。

城代(じょうだい)・・・城主が留守の間、城や城周辺の領土の守備を任される人。奉行よりえらい。

町年寄(まちどしより)・・・江戸の町を運営管理する町役人の中で一番偉い人。

情偽(じょうぎ)・・・まことといつわり。

白州(しらす)・・・罪人の取調べをするところ。

三道具(みつどうぐ)・・・刺股(さすまた)・突棒(つくぼう)・袖搦(そでがらみ)の三種類の捕り物用の道具(捕具)の総称。

かぶりを振る・・・頭を左右に振り、不承知・否定の意を表す。

お上(おかみ)・・・ここでは奉行所のこと。

献身のうちに潜む反抗の鋒・・・奉行所に従うような姿勢・言葉を見せながらも胸中では奉行所に反抗しているということ。

「江戸へ伺中日延」・・・太郎兵衛の刑の執行やいちの申し立てをどうするかについて審議するために執行日を延長するということ。

大嘗会(だいじょうえ)・・・天皇が即位したあとはじめて行われる、その年に取れた穀物を神々にささげる祭「大嘗祭」後の宴会のこと。

「京都において大嘗会御執行相成り候てより日限も相立たざる儀につき、太郎兵衛事、死罪御赦免仰せいだされ、大阪北、南組、天満三口御構くちおかまいの上追放」・・・京都で大嘗会があって執行の日にちが決まらないので太郎兵衛の死刑をなかったことにして、大阪への立ち入りを禁ずることにする。

中絶・・・進行中の物事が途切れること。ここでは1687年から桜町天皇の前の天皇の時には大嘗会が行われなかった(中絶していた)ので、それを桜町天皇が復活させたということ。

まとめ:現代でも通用する社会風刺作品

この最後の一句は現代でも通用する社会風刺作品といえると思います。

そんなことを踏まえて読書感想文に「最後の一句」を選んでみてはいかがでしょうか?


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